第一話 『記憶』

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 消えない不安や恐怖・罪悪感は、過去のトラウマにある。そのトラウマを解消するには“思い出す”ことである。

そうは言っても、ボクには本当に幼少期の記憶がなく、小学生の頃の記憶もわずかしかない。

しかし、私が味わってきた不安や恐怖・罪悪感は、ないはずの記憶にある何か(トラウマ)を忘れることができずにいるためであることは理解できる。

だとしたら、ボクはいったいどんなことを思い出すのだろう。

そして、思い出すことができたら、本当に過去を忘れ、不安や恐怖、罪悪感は消えてなくなるのだろうか。

なくなってほしい。なくしたい。とにかくやるしかない。

そういう思いでボクは妻にセラピーを申し込んだ。

そして約1か月の間、何度もインナーチャイルド・ワークを行った。

『はじめに』にも記したように、初回は、ボクのイメージに出てきたのは、学校に行けなくなって一人ベッドにもぐる“中学3年のボク”だった。

ボクは“中学3年のボク”と対話をはじめた。

[今のボク] 「裕くん、つらいね、大丈夫? どんなことがつらいか話してくれないかな?」

[中3のボク] 「・・・誰もわかってくれないのがつらい」

[今のボク] 「そうだね、つらいね」

[中3のボク]「先生が同級生をつれて励ましにくる」

[今のボク] 「うん、どうすることもできないよね。余計につらくなるね」

[中3のボク]「うん。毎日バスに乗って行くのがつらい。

(ボクはイヤだった。医者になるには良い高校に進学しなくてはいけないから地元の中学ではなくて、越境入学で家から離れた大きな中学校に行くことが決まっていて、兄貴も行ってるから、行くしかなかった)

兄弟2人で連れ添っている姿を人に見られるのが恥ずかしいという兄貴に気を遣って、バスを1本ずらすのもつらい。馴染めない。もう疲れた。ボクはどうなるのかな、怖い」

[今のボク] 「怖い・・・ね。どうなるのか・・・」

[中3のボク]「留年とか、将来とか」

[今のボク] 「そうか。わからないから怖いんだね。あのね、ボクは医者になったんだ。でもならなくても良かった。自分で決めて良かったんだ。ちゃんと教えて欲しかったよね、出席日数は足りてるから休んでも留年はしないとか、学校に行かなくても将来はちゃんとあるとか。学校に行かなくても、医者じゃなくてもちゃんと将来はあるんだ。自分で選んだ方がいいんだ。キミは医者にはならなくていいんだよ」

[中3のボク]「でもそれじゃ価値がない。みんなそう思ってる」

[今のボク] 「そうだね、家族や親せきはみんなそう思い込んでいる。キミは医者よりももっと、持って生まれた才能を開花させることができる、自分に合った選択肢を選んだ方がキミらしく生きられる」

[中3のボク]「医者にならなくていいの?」

[今のボク] 「自分で選んでいいんだ」

[中3のボク]「選びたい、でも、やっぱり怖い。価値がない。つらい」

[今のボク] 「どうしたい?」

[中3のボク]「逃げたい。ここから逃げたい」

[今のボク] 「逃げようか。ボクのところにおいで。ボクには、ちゃんとわかってくれる奥さんと、7歳の息子がいる。息子は学校に行ってないんだ。息子には合わないってわかったら、みんなで話し合って、辞めようって決めたんだ。息子がいろんなこと教えてくれるよ。きっと楽しい。だから、こないか?」

[中3のボク]「うん、行きたい」

そうしてボクは、中学3年のボクを、医者になることだけに縛られた世界から連れ出した。

 

第2話へ続く・・・

 

解説

「トラウマが治る」というのは、過去の出来事の中にあったありのままの事実や感情がどういうことだったのかがはっきりわかること。そして、もう同じ思いはしなくていいとわかることで、納得して忘れていくことができるようになるということです。

そうなるためには、過去のつらかった体験を、もう一度体験するように感じ直し、子どもの頃に返って、「怖い! 悲しい! 寂しい! ひどい!ずるい! 悔しい!」という、言葉にできなかった気持ちを言葉にし、泣いて、怒って、「私(僕)のせいじゃなかった! 悪くなかった!」という気持ちに確信が持てるようになる、という過程が必要なのです。

つまり、「トラウマが治る」ためには、もう一度つらかった体験を再体験するという作業を行うことが大切であって、そうすることで、過去の出来事が本当に過去のものとなって忘れていくことができるようになるのです。

 

過去の体験が未解決のまま放置されている場合

未解決のまま放置されている、「無力だった子ども時代の不平等な関係性の中で起こった出来事やトラウマ(心の傷)」があると、その出来事やトラウマを与えた人と置き換わるような代用者を引き寄せ、同じような関係性やそれに伴う苦しみを再現します。

インナーチャイルド(内なる子ども=傷ついたまま取り残されている子ども時代の無力な自分)は、再現されている事象を通して、その時の悔しかった思いに気づかせ、子ども時代に負わされた不平等な関係性の中で起こった出来事やトラウマの責任は、自分にはまったく無かったという事実について深く認識させようとし、洞察に至るまで、また他の代用者を引き寄せて再現は繰り返されるのです。

それは、まるで心の奥底に潜んでいる怒りや恐れ・悲しみ・憎しみ・嫉妬・劣等感・罪悪感・自責感などの負の感情や、放置されたままの心の傷が、子どもの頃の悔しかった出来事や心の傷を与えた人と置き換わるような代用者を引き寄せているようなものです。

その時の心の傷や感情が、その存在を知らせるかのように訴えかけ続けるのです。