第五話 56歳とぬいぐるみ

f:id:saitomc:20170626233824j:plain

そうしてぬいぐるみを買った。

インナーチャイルド・ワーク(ワーク)で、ぬいぐるみを、幼かったボクに見立てて抱きしめるため。

 

その日からこのぬいぐるみは、“裕くん”と呼ばれている。

ベッドに置いたままボクが離れると、息子がわざわざボクのそばに連れてくる。

「はい、裕くん。いつも一緒にいてあげないと」などと言って。

 

そしてワークの時、ぬいぐるみの裕くんを抱いてソファに身体をうずめる。

妻にリードしてもらい、イメージの中・・・

妻「あちらの方から歩いてくる男の子、何歳くらいですか?」

ボク「・・・・・3歳くらい?」

妻「どんな表情してる?」

ボク「・・・・・表情はない」

妻「男の子を見て、どんな気持ちが湧くかな」

ボク「・・・・・かわいそう?」

妻「男の子に話しかけてみようか」

ボク「・・・・・どうしたの?」

妻「どうしたのかな。お父さん・お母さんは?」

ボク「仕事だって」

妻「遊ぼうかって誘ってみない?」

ボク「一緒に遊ぼうか・・・」

(裕くん)「うん」

妻「続けて」

ボク「おいで(手を差し出して、つなぐ)。どこに行こうか」

(裕くん)林を指さす

ボク「・・・・・やっぱり記憶がまったくなさ過ぎてこれ以上できない」

妻「そっか。じゃあ、裕くんとさよならする? それとも裕くんが望むなら、この前みたいに、一緒に帰るか・・・」

ボク「裕くん、寂しい? つらいならボクのところにこない?」

(裕くん)「うん」

妻「じゃあ・・・うん、少しつらいかもしれないけど、ちょっとごめんね、お母さんが登場するね。裕くん、お母さんが呼んでるよ、ほら、迎えにきた。『裕、帰るよ』」

ボク「・・・裕くんはオレと帰る」

妻「『何言ってるの、私の息子よ』」

ボク「裕くんはつらいんだ。あの家にいたくない」

妻「『いいから返して。あなたに育てられるわけないでしょ』」

ボク「あなたのもとでは裕くんは幸せじゃない」

妻「『ダメ、返しなさい!』」

ボク「この子はオレが守る!!!

 

返しなさい』その圧力を含んだ言葉に、ボクの感情が高まった。

ボクは、イメージの中で、自分でも気づいていなかった『怒り』と『憎しみ』の感情を全力で母にぶつけ、解放させた。

そして、裕くんを連れて戻った。

 

冷たかった身体が温かくなっていた。

心もやけに冷静だった。

 

子は親に従う者

良い子でいなさい

親孝行しなさい

親を敬いなさい

親に感謝しなさい

そういう概念をまともに受け入れ押しつぶしてきた『感情』そして『個性』を、ボクは取り戻そうとしている。

 

※ちなみに。ボクのプロフィールの画像とタイトルに描かれた動物は、この“裕くん”ぬいぐるみです。ネコだそうですが、ネコと言うと息子が「イヌだ」と怒るので、イヌということで。

f:id:saitomc:20170627024146j:plain