第九話 朝起きたらなぜか緊張しているのだ

 

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第九話

『貯金型思考』と『投資型思考』

自分から『医者』を取ったら何も残らない。感情を麻痺させてきたために欲求が麻痺している・・・)何をしたいのか、「自分」がわからず戸惑うボクの一方で、妻はどんどん行動していく。

この対照的な姿が、読み始めた堀江貴文氏のすべての教育は「洗脳」である 21世紀の脱・学校論 (光文社新書)にそのまま書かれていた。

  • ボクは「いざという時」に備え、今の欲望を我慢して、ありもしないリスクに備えて貯金させられる教育を受け、この「貯金」的な学び方、我慢の仕方に縛られたままの『貯金型思考』
  • 一方で妻は、自分が何を求め、どんな社会でどう生きたいのかを考え、本当の学びに踏み出し、本当の自己投資を実践していく『投資型思考』
その対比の表が載っていた。
  • 基本行動       (貯)蓄える   (投)増やす 
  • 大切にしているもの  (貯)貯蓄額     (投)時間
  • 使ってもかまわないもの(貯)時間      (投)お金
  • マインド       (貯)我慢・節約 (投)勇気・ワクワク感
  • 欲しいもの      (貯)安心    (投)自由
  • 大きく増える可能性  (貯)なし    (投)あり
  • 元本割れリスク    (貯)なし    (投)あり
  • 価値判断       (貯)しない   (投)する 
  • 財産を使うタイミング (貯)いざという時(投)いつでも

蓄える対象は、お金だけではない。モノ、学歴、肩書き、資格など「価値があるとされているもの」全てである。そして「蓄える」ことに不可欠なマインドは、なんといっても「我慢」だ。(『すべての教育は「洗脳」である』より)

あまりにそのまますぎて、衝撃を受けた。おかしくさえ感じられて、ふたりで笑ってしまった。

 

朝起きると緊張している

(ボクも『投資型』に変わらなければ。)そのプレッシャーからか、朝起きると緊張している。そういうボクに妻は言った。

「なんかわかるよ。私も緊張してたって言ってたでしょ。出産して(息子と)一緒の生活がはじまった途端、朝起きたらなぜか緊張してるの

それは1年以上続いていたそうだ。子どもの世話以外、何もかもうまくこなせなくなって、身体と心が固まったような状態だったという。

 

人は、それまで身につけてきた本物ではないアイデンティティーを手放さなければならないと促されている時、この手の緊張が身を包むのかもしれない。

『新学期のような緊張』なのだ。

 

妻に訪れた『初めての反抗期』と『生きづらさ』

実は、妻は母親になってから丸々5年、浮き彫りになった自身のアダルト・チルドレン(AC)の問題と格闘してきた。それを乗り越えて本来の自分に目覚め、自己を成熟させてきたから今がある。

そもそも、出版した本『ママ、怒らないで』は、そういう妻のAC克服の体験がなければ存在していない。

中学生の頃から航空会社の客室乗務員になるのを夢見ていた妻は、その夢を叶え、客室乗務員になった。ボクと出会ったのはその3年後。すぐに結婚の話が出た。せっかく憧れて実現した職業だから、満足いくまで仕事してほしい。そして結婚する時にはやめてほしいと伝えると、妻はあっさり辞めることを決めた。

辞めることを意識したことがなかったが、意識したら『辞めていいんだ!』と喜ぶ自分がいた」とのことだった。

結婚後は、出産までの8年間を専業主婦として過ごし、後半はセラピストの資格を取ったり、クリニックのサポートをしてきた。

変化は出産後。気は強いが、優等生で良い子、大人から高く評価される子として目立った反抗期もなく成長してきた社交的な妻に、初めての反抗期が訪れた。

きっかけとしてお母さんはしつけをしないで (草思社)ちゃんと泣ける子に育てよう, 親には子どもの感情を育てる義務がある(河出書房新社)といった本を読んだことも大きい。

それに加え、我が子の姿に“自分のインナーチャイルド”が重なり、『愛情で満たしてもらえていなかったこと』『無視や否定、叱責などによる心の傷』『理想・価値観の押しつけ』などによる負の感情が蓄積していたことに気づいたのだ。

次第に対人関係で、今までは気にならなかったことがごまかせなくなり、誰かと関わるごとに負の感情に翻弄されるようになった。つまり、人生ではじめて『生きづらさ』を感じ、固まっていったのだ。ACを自認した。

その後読んだ毒になる親, 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)は、妻を動かした。親との対決を始めたのだ。電話で必死の自己主張、手紙、帰省しての対話、何度となくそれを繰り返すが、折り合いはつかず、心の傷と怒りはますます大きく膨らむ。

 

毒親を受け継ぐわけにはいかない』

親から受け継いだ子育て、親子関係、夫婦の在り方、人間性、負の連鎖を断ち切りたい。自分は毒親にはならない! その一心で約5年に渡って対決を繰り返したのだった。

その間、消化できず膨らんだ怒りがボクや子どもに向けられることがあったり、感情の波で家族を巻き込むことが何度も起こった。

『偽りの自分』が抵抗を起こす時は、傲慢さや自己中心性が前面に出て、夫婦間に大きな亀裂を生んだ。妻を変えようとしたところで逆効果だ。それがわかるだけに、心を鬼にして妻の感情や要求を受け止めることをやめた。次第に妻はボクに依存できなくなり、何とか自分で感情を処理する力、判断する力、決定する力、責任を持って行動する力を身につけていった。

無我夢中でやってきた対決や手紙書きは、自己主張力となって自然と備わった。すべて無駄ではなかった。

このように、実地で七転八倒しながら、妻は自立し、人として、母として、カウンセラーとして成長していったのだ。

こうして新しい自分のアイデンティティーを獲得し、精神的な自立・成長を果たした人のことを『スライバー』という。

 

『順番』

 人は誰でも完璧じゃない。

そして、人は幸せになるために生まれてくる。

“完璧でない”部分が幸せを妨げているのであれば、それは改善したい。

“完璧でない”のは夫婦どちらかだけじゃない。

今度はボクの番。

クリニックを閉じカウンセリングルームへ変更したことで、ボクの中の本物でないアイデンティティーを手放すための環境が安心・安全なものになったから、ボクの番がきたのだ。

『親への手紙書き』や『感情の解放』など、一連のワークを済ませていた中で、まだやり残していたことと言えば、「本当にやりたいこと」、「ワクワクするようなこと」、を見つけ、「人生を楽しみながら生きる」ことだった。

そのためには、過去に身についたネガティブに働く習慣、中でも前述のような貯金型思考に引き戻されないように手放していくこと、そしてとにかくやってみることだ。

 

第十話に続く 

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アダルト・チルドレンだと何が問題?:さいとうカウンセリングルームブログ