病は気からという言葉は本当なのでしょうか?
本当だとしたら、次のような症状(病)には、どのような『気』が影響しているのでしょう?
『気』とは、「意識」「感情」「素質」「性格」のこと?
今日は、そのことについて考えを巡らしていこうと思います。
まずは思いつく限りの様々な症状を挙げます。
精神的および身体的症状(*注1)
自己嫌悪、無力感、情緒不安定、憂うつ感、気分の落ち込み、悲哀感、絶望感、意欲が湧かない、頭が働かない、決断ができない、自分の力が出ない、人と会うのが億劫、感情が生き生きと感じられない、自分が自分でない感じ、生きていくことがつらい、つらかった過去を想起する(フラッシュバック)、対人緊張、対人恐怖、動悸・めまい・呼吸困難・発汗・震えなどを伴ったパニック発作、洗浄癖・確認癖 など
不眠、倦怠感、疲労感、窒息感、喉や胸の詰まり感、食欲不振、消化不良、胃部不快感、吐き気、腹痛、下痢、便秘、喘鳴(喘息性)、肩凝り、身体各部の疼痛(片頭痛などの慢性頭痛、生理痛、腰痛、下肢痛など)、知覚異常、耳鳴り、難聴、、チック(まばたき・顔しかめ・口ゆがめ・首振り・肩上げ・咳払い・鼻鳴らしなどの突発的で反復性の常同的な運動あるいは発声)、どもり、頻尿、じんましんなどの皮膚症状 など
行動化
自傷行為(リストカット・壁を殴る・頭を壁にぶつける など)、家庭内暴力、キレ、DV、いじめ、虐待、万引き、窃盗、家出、不登校、引きこもり、過食症などの摂食行動の異常(自傷行為、いじめ、虐待、窃盗、過食症などは嗜癖としても扱われている) など
嗜癖(しへき)・依存症
アルコール依存、薬物依存(鎮痛剤・精神安定剤・睡眠導入剤を含む)、ギャンブル依存、ネットやケータイ(スマホ)依存、買い物依存、仕事依存、恋愛依存、ブランド依存、肩書(経歴)依存、上昇志向依存、良い子(良い人)であることへの依存、自身より弱者とする相手への『共依存』 など
たくさん羅列しましたが、これらはすべて、『症状』と捉えられるものです。
なのでつまり、「病は気から」でいえば、これらのことにはすべて、何らかの『気』が原因になっている、ということになります。
『言葉にならない心の叫び』
ボクが医者という仕事に責任を負いすぎたのは、こういった『精神や身体の症状』に対し、薬だけに頼って症状を抑えることでは、『治している』、という感覚を持てなかった、ということからでした。
そこで、精神や身体の症状は、『言葉にならない心の叫び』、そう考えて、その『心の叫び』を聴き、その声に誠実に向き合って、問題に対処していくことを目的としたカウンセリングを行ってきました。
『心の叫び』はその方の人生をくつがえすようなものであることも多いものです。
『症状』を治すためとはいえ、そういう大きい課題をクライアントさんに直面化させる仕事は、とても荷が重いもの。そのような責任を負っていたというわけです。
ボクも『病(症状)は気から』というのは合っていると思っていて、その『気』というのは、わかりやすく言えば『抑え込んだ負の感情』のことです。
『抑え込んだ負の感情が、症状(行動化、嗜癖・依存症などの問題を含んだもの)に置き換わって表れている』というもの。
負の感情とは、不満・イライラ・怒り・敵意・恐れ・不安・悲しみ・寂しさ・空虚感・嫉妬・劣等感などの、一般的にはあまり歓迎されない感情のことです。
つまり、症状(病)は『その負の感情を何とかしたいという心の叫び』である、と考えているのです。
心の病は、脳の病気?
心の病については、脳科学などを用いた説明を聞くと、『脳』が起こす病気と捉えます。
では、その脳の病気を発症させる最たる原因は? ということになります。
その原因として、よく『ストレス』が取り上げられます。
『ストレス』という言葉は病気を引き起こす(つまり脳の病気を発症させる)ものとしての認識が高い言葉ですが、やはり原因は『ストレス』なのでしょうか?
精神医学では、脳の中のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質のバランスの乱れによって様々な症状・症候が起こっているものと考えられています。
そして症状・症候の特徴によって診断名(うつ病、社会不安障害、パニック障害、強迫性障害など)がつけられ、症状や状態に見合った処方が行われていくというのが通常です。
ですから治療の中心は薬物療法で、薬を投与することによって、脳内にある神経伝達物質のバランスを整え、症状を抑えていくものです。しかし薬物療法は対症療法に過ぎないため、ずっと薬を飲み続ける必要性が出てきます。薬により症状を抑えられるかもしれませんが、新たに薬への依存症を生み出すことになりかねないのです。
果たして神経伝達物質のバランスが乱れる原因の多くを“ストレス”という言葉でひとまとめにできるのものなのでしょうか?
“ストレス”という考え方は、あまりにも漠然としていて、具体的に焦点が当てられたものでないため、根本的な解決が得られることは難しいでしょう。
症状の根本原因とは?
私は、その人本来の欲求や負の感情を閉じ込めて(抑圧させて)しまうものすべてが、症状(行動化、嗜癖・依存症などの問題を含む)を起こさせる根本原因と捉えています。
つまり、その人本来の欲求や自然に湧いた負の感情の抑圧によって、症状(行動化、嗜癖・依存症などの問題を含む)が起こっているというものです。
その根本原因とは何かというと、知力・腕力・言語力とも大人にかなわなかった無力な
①『子ども時代に受けた“虐待”などによるトラウマ』と
②『子ども時代から当たり前のように存在する上下(支配・被支配)の関係性や、その中で身についた習慣』
この2つの影響が特に大きい、ということを掴んでいます。
つまり症状は、このトラウマと支配・被支配関係の中で起こったことの、『後遺症』なのです。
“虐待”には「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」がありますが、
①の“虐待”の中でも、“虐待”としての認識はおろか、“問題”として意識されていることが非常に少ないのが、
「しつけ」や「教育」の中に隠れている
- 『“子どものため”を名目とした、親の都合による価値観の一方的な押しつけ』
- 『暴力・圧力を伴った親の有害な言葉や態度の有無を問わず、親の都合で考える常識の枠に当てはめさせるための、無意識的な誘導操作を含めたコントロール』です。
これらは「心理的虐待」に含まれるものです。
そして、②の習慣の代表が、
『その子本来の欲求や負の感情を抑圧させてしまうもの』です。
その習慣にもっとも影響力を与えているのが、判断力のまだ低いとされる子ども時代に刷り込まれている、
『「こうあるべき、こうしなければならない」という儒教的・道徳的な「教義」や「規範」』です。
これは特に厳格でなくても、そこに子どもの忠誠心を利用した、理想像(イメージ)への誘導が存在するということです。
例えば、子どもを褒めることに誘導が加わると、親や大人のイメージ通りになるように仕向けるという意図が加わることになりますから、これが日常化した場合、子どもの主体性(自分の意志・判断によってみずから責任をもって行動する力)を奪っていくという意味で、これも「コントロール」になります。
“良い子”(人)は「育てやすい子」「扱いやすい人物」
その「教義」や「規範」とは、例えば、
「子は親に従うもの」
「我慢強い子になりましょう」
「感情的になるのは良くありません。もっと大人の振る舞いをしましょう」
「自分のことよりも、ほか人のことを考えましょう」
「目上の人に逆らってはいけません」
「わがまま(自己主張に値する)を言ってはいけません」
「社会に早く適応し、誰からも認められる人間になりましょう」 などです。
これらは、親や社会が、「育てやすい子」や「扱いやすい人物」を求めてしまうことが大きいようです。
「親が育てやすい子」「社会が扱いやすい人物」とは、反発しない、手のかからない、聞き分けの良い、親や社会にとって都合の良い子(人)、
いわゆる“良い子(人)”です。
(詳しくは「しつけ」「教育」の後遺症 :さいとうカウンセリングルームブログをご参照下さい)
“良い子(人)”に身についた感じ方・習慣
・傷ついているのに、何ともないフリをする
・人前で感情的になることは、恥ずかしいことだと思う
・自分のことを周りの人がどう思っているのか気になる
・相手に嫌われるのが怖いので、相手に合わせて自分の正直な気持ちが言えない
・「我慢することは良いことだ」と今もそう思う
・自分のことより、周りの人のことばかり考えてそっちを優先してしまう
・相手の役に立つことができなかったり、期待に応えることができないと罪悪感が湧く
・人前で良い人、良い子を無意識にアピールしてしまうことがある
・人から認められたいという思いが強い
・目上の人の考えや感じ方、価値観と違うことを選ぶことへの罪悪感がある
・人から言われたことを、いつまでも気にしてしまう
・過剰に適応しようとしてしまう
・嫌なことに『No』と言えない
・自発性、自主性、主体性が育っていない
・集団に属していないと不安になる
・感情をコントロールできない時がある
・自分の感情や本当の欲求がわからない
・いつも人よりも上にいたいために、勉強するなど何か努力していないと不安になる
「本人の性格やものの考え方の問題」と捉えられがちな、これらの習慣も「押しつけ」「コントロール」「刷り込み」による『後遺症』と言えるのです。
予防と改善
問題は、これら①②の根本的な原因によって、 持って生まれた子どもの個性(独自性)や気質が育たず、子どもの『主体性』が奪われ、子どもの本当の欲求や自然に湧いた負の感情を抑圧させてしまう、ということです。
しかも、ひとつひとつの「押しつけ」や「コントロール」ないし「刷り込み」が、“子どものため”を名目として、「しつけ」や「教育」という名のもとに行われるだけに、子どもにとっては【抵抗不能】であり、それらによって【子どもの心(脳)への侵入が許され、子どもの心(脳)が、親や大人の考えに支配されていく(大人化されていく)】という問題もあります。
そうして、このような子ども時代を経てきて大人になったボクたちが、精神的・身体的症状または行動化または嗜癖・依存症などの問題を抱えている、というわけなのですね。
ですから、次の世代の子どもたちに、症状(病)の種が植えつけられないようにする、という予防の意識とともに、ボクたち大人が症状から解放されるためにも、
「しつけ」や「教育」、「教義」や「規範」が与える、隠れたネガティブな影響という問題の本質(本当の原因)に光が当てられ、見直されることが重要なのです。
症状は本人だけの問題(原因)ではない
私は、症状については、ご本人だけの問題として捉えるということをしません。
前述したように、
①『子ども時代に受けた“虐待”などによるトラウマ』と
②『子ども時代から当たり前のように存在する上下(支配・被支配)の関係性や、その中で身についた習慣』
が種となって生じているもの として、子ども時代の、重要な人との関係性の背景や、その中の隠れた問題にも焦点を当てることを大切にしています。
つまり症状(行動化、嗜癖・依存症などの問題を含む)は、
①´『“虐待”などによるトラウマの後遺症=複雑性PTSD』、
②´『関係性の中で身についた習慣からもたらされているもの』
と捉え、そのうえで
・今も浮遊し続ける過去の体験(複雑性PTSD)や、ネガティブな影響が与えられてきた関係性を、きちんと過去のものにする、
・ その人たちとの関係性や、その人たちとの間で身についたマイナスに働いている習慣を自分にとってプラスになるものに、自分らしく生きるためになるものに換えていく 、
症状や問題の根本的な改善につなげられるよう、これらに取り組むことを大切にしているのです。
(セラピーについては『PTSD』 ~虐待による後遺症~:さいとうカウンセリングルームブログをご参照下さい)
(*注1)前述した症状の中には、脳・神経やその他の臓器・組織の形態的異常によって起こっていると考えられるものもありますが、それらの形態的異常によってもたらされる身体的な病気においても、病気という文字が示しているように、その人の持つ「素質」に加え、「感情」・「意識」などの『気』が、病に与える影響は大きく、中でも、その人が身を置いている「負の感情を抑圧させやすい環境」または、その人に身についた「負の感情を抑圧してしまう習慣」が、病に与える影響は大きいと考えます。
書籍の紹介
ボクたちの著書、『ママ、怒らないで。』には、この記事のような内容について、対話形式を取り入れながら具体的に説明を施しています。
現在の生きづらさや対人関係、子育ての困難さの原因を求め、生い立ちの中の心の傷と向き合っていくセラピー本です。よろしければ合わせてご覧ください。