『啐啄同時(そったくどうじ)』
『啐(そつ)』
…雛が卵から生まれる時に、卵の内側からくちばしでコツコツと殻をつついて音を立てるその時、
『啄(たく)』
…母鳥はそれに応えるかのように外から殻をついばんで割る。
この『啐』と『啄』がまさに同時に、最も大切な時に行われることを表した『啐啄同時』という言葉(禅語)があります。
卵から生まれるのが、早すぎたり遅すぎたりすると、雛が死んでしまう。
だから、早すぎないよう、遅すぎないよう、感覚を研ぎ澄ませ、雛の準備が整って自ら出ようとする『絶妙なタイミング』に、母鳥が必要な行動(外からついばんで割る)を取る。
という様子を例えに、親と子、師と弟子、教師と生徒といった関係において、親や師、教師が心得ておくべき姿勢として用いられることが多いようです。
反対に、このことからボクは、自身を雛鳥と捉えて解釈することもよくあります。
人間には、人生を歩んでいく中で、まるで殻を破って新しく生まれ変わるような成長を遂げる瞬間があります。
殻を破る時は、たいてい勇気が要ります。
今までのところが安心・安全だと思っていたが、殻を破って外へ出なければ成長しない。
だけど、未知の世界は怖い。
新しいことを始める時は怖い。
だから勇気が要るのです。
外では、待ってくれている。
ボクが殻から出る必要に気づいて、自分から殻をつつき、出ようとする瞬間を。
外の世界からの大きな力の働きかけ
ボクは思います。
殻から出る必要がある、と人間が感じるまでには、それを促すきっかけが、ひとつやふたつ、またそれ以上ある。
昨日の記事に、万法(ばんぽう)とは、人間を超えた大きな力だと表現し、その大きな力が「気づけ」、「気づけ」と促してくれている、と書きました。
つまり、ボクたちは、親や師、教師の立場であるならば、雛である子や弟子、生徒が殻をつつく音に感覚を研ぎ澄ませることが求められる。
そして、雛の立場である時は、万法(外の世界からの、大きな力)の促し(きっかけ)を感じ取ることが求められる。
外の世界からの、大きな力がボクに働きかけ、「手放すことで『本来の自己(自由)』そして『個性』を花開かせることを促していくれている」、そう思うからです。
インナーチャイルドからの働きかけ
また、それだけではありません。
実はもうひとつ、自身に働きかける存在があると捉えています。
それは、インナーチャイルドです。
インナーチャイルドとは、「傷ついたままの幼い頃の自分」のことです。
私たちに内在する、インナーチャイルドもまた、絶えず自分を生かす方向・回復の方向を求めて行こうとするからです。
多くの人が、傷ついたままの自分=インナーチャイルドを抱えています。しかし、そのことを自覚せずに過ごしていらっしゃる方のほうが多いでしょう。
人の抱える悩み苦しみは、このインナーチャイルドが傷つき力を失ったまま放置されていることにあると考えるのです。
ところが、インナーチャイルドは、安心・安全な環境に置かれなければ十分な力が発揮できない。そう感じています。
また、人は心の傷(トラウマ)を負ってしまうと、再び傷つくことに過敏になっていて、殻を破ることに不安と恐怖を感じるのです。
独自の個性を花開かせるために欠かせない土台とは
人間に宿っている生命は、それぞれ独自の個性を持った生命。
その生命の成長過程のリズムやペースも、それぞれ独自のもの。
しかし、その独自の生命が個性として花開くかどうかは、その人が育った環境に左右される部分が大きいように思います。
その人の生まれ持った資質や個性が、花開くことなく押し潰された時、様々な症状や問題とされる行動、つまり『言葉にならない心の叫び』を出すのです。
症状や問題もまた、『殻を破ることへのきっかけ(促し)』のひとつなのですね。
繰り返しになりますが、私たちは常に、外界から働きかけられる大きな力によって、殻を破ること(本来の自己に目覚めること)を促されています。
そして、私たちに内在する、インナーチャイルド(傷ついたままの幼い頃の自分)もまた、絶えず自分を生かす方向・回復の方向を求めて行こうとします。
しかし、インナーチャイルドは安心・安全な環境に置かれない限り、十分な力が発揮できません。そして私たちも、インナーチャイルドの声や大きな力の促しを感じることができないのです。
そこに気づいて自分を安心・安全な環境に置いた時、インナーチャイルドが力を取り戻し、抑圧してきた本当の自分の声を解放し始めます。一方で今の自分も、感じる力が育っていきます。そして、大きな力の促しや過去の自分の声を聞き取ることを始めるのです。
ヒーリング・クライシス
ボクの場合の安心・安全な環境とは、自分の感性や個性が、花開くことなく押し潰されていた世界から、自分の力で飛び出すことでした。
つまり、自分の身の丈に合っていない医者という衣を脱ぐことだったのです。
それは医者という、身につけさせられた“偽りのアイデンティティー”、を自力で脱ぎ取ること。
そしてその“偽りのアイデンティティー”を本当の自分だと信じ込んでいたことから目を覚ますことでもあったのです。
それを大きな力は教えようとしてくれていたのでした。
そしてボクが、今までの世界を抜け出して安心・安全な環境に身を置いた時、ボクの脳(精神)はその安全を感知し、傷ついたインナーチャイルドの回復を求めて『ヒーリング・クライシス』が起こり、抑圧してきた子どもの頃の本当の声(感情)を解放し始めたのです。
(ヒーリング・クライシスについて詳しくは、このブログの『ヒーリング・クライシス - あの日のボクへ』、『第6話 何も失いたくない』をご参照下さい。
その意味で、今自分が置かれている環境、例えば、実家(女性の場合は嫁ぎ先も)・学校・自分の意志で選んだと思い込んでいた職場(職業)などが、自分の個性が花開く環境(自分の身の丈に合った衣)かどうかを見極めることがとても重要であると気づかされた、人間の“自然治癒力”の存在を実感させられるとても神秘的な体験だったのです。
安心・安全な環境に身を置くこと。
それが、絶妙なタイミングで個性を花開かせるために欠かせない、最も大切な土台なのです。