過食症に隠れた祈り 「愛されたい」

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(*1)嗜癖(しへき)のひとつである過食症と、アダルト・チルドレンは切り離せません。

その、過食症を招くことがあるアダルト・チルドレンは、(*2)機能不全家族』によってもたらされるものであることはこれまでの記事でもお伝えしてきました。

anohi.hatenablog.com

 (*1)嗜癖アディクション・・・機能不全家族の中で適応していくために抱えることとなった、自分にとって都合の悪い、負の感情や満たされない欲求を、紛らわす・誤魔化すために身についた、『ある習慣への耽溺(たんでき)=異常な執着』。

・人を介する嗜癖・・・共依存・恋愛・浮気・セックス など、

・物に対する嗜癖・・・アルコール・薬物・ニコチン・カフェイン・食べ物 など、

・特定の行動に対する嗜癖・・・インターネット・スマホ・ギャンブル・仕事・買い物 など

(*2)機能不全家族・・・親によって親としての責任と機能を果たされていないために、子どもが子どもらしく生きることのできない、安心・安全感のない家族のこと。

 

 

 今日は『過食症』に関するQ&Aを通して、その背景や解決のイメージをお伝えしたいと思います。

 

 

Q.

娘が過食と嘔吐を繰り返しているようです。  

本人から相談がない以上は、そっとしておいた方が彼女のためとは思うのですが、心配です。

止めさせるにはどうしたらいいでしょうか?

 

 

A.

過食症といってもその方法やパターンは人それぞれ違いがありますが、娘さんの場合は

『食べる前や食べている最中は強い衝動に突き動かされていて、自制が効かない状態で、食べたあと冷静さを取り戻し、我に返って後悔と自己嫌悪に襲われ嘔吐する』

といったパターンに近いのではないかと思います。

 

過食症は、本人の症状や問題と捉えがちですが、決してご本人だけの問題ではありません。

過食症が始まるきっかけがダイエットだったりすると、ますますご本人のこだわりのようにしか思えなかったりしますが、種がなければそのような行為には至らない、というのがボクの考えです。

 

過食症と自己否定

過食症には、『強い自己否定』が存在しています。 

大量に食べて指を喉に入れてすべてを吐き出そうとする行為は自傷行為のひとつ。

理想的な自分へのこだわりや、今のままの自分ではダメという強い自己否定の気持ちがダイエットや美への執着などとして表れ、このような極端な行為に発展しています。

 

過食症と満たされない心の飢え

また、「満たされない心の飢え」の存在も切り離せません。

これは愛情不足を意味しているばかりではなく、『見捨てられ不安』が存在することへの意識が重要です。

『見捨てられ不安』は、生い立ちの中で、誰よりも大事な親御さんから無視されたり拒絶・否定されたり放置されたりした体験によって植えつけられるものです。

 

愛情というのは親の一方的な思いだけの愛情や、こうすれば愛される・認められるといった“条件つきの愛情”ではなく、

無力な子ども時代に無条件に受け入れられ、気質や個性、感情や欲求がありのまま受け入れられる『無条件の愛』のこと。

『私を大切にして』『私のほうを見て』『私を愛して』という純粋な祈りのような思いが受け入れられず、不安定な心理状態で幼少期を過ごしてこられたことがうかがえるのです。

 

 

 過食症について、次のようなケースが参考になるかと思います。  

 

過食症】Mさん親子のケースより

過食症であることをずっと隠していた高校生のMさんの異変を、同居しているおばあちゃん(お母さんの実母)が感じ取り、ある日Mさんのお母さんに告げました。

お母さんがMさんに投げかけた言葉は

「何をやっているの。それは精神的な病気よ」

と、それだけだったそうで、Mさんの抱えている悩みについてなどを問うことはありませんでした。  

 

Mさんが初めて相談にこられた時、お母さんは付き添いだけのつもりでこられました。

過食症はMさん自身の問題としか考えなかったからです。

しかし、カウンセリングの対象はMさんではなくお母さんでした。

Mさんの症状にはお母さんへと向かう 『言葉にできていない心の叫び』があると捉えられたからです。  

 

Mさんのお母さんは、大変社交的で自立した方のように見えましたが、その内面はとても傷つきやすく、実は人との関わりや自己表現に対する怖れが強い方でした。

満たされない心の飢えを持ちながらも「自分の中にある孤独(空虚)」を見ないようにして、「そのような自分」を決して人には見せません。    

 

次にMさんは、おばあちゃんとの同居以降、家庭内の空気が変わってしまったと感じていました。

 

  • 「どうして家の中で気を遣って過ごさなければならないんだろう」
  • 「父や母にはイヤ、と言えてもおばあちゃんには何だか悪くて言えない」
  • 「母もおばあちゃんに対してイライラしたりムカついたりしてて、それが口調に出るのに、おばあちゃんは悲しい顔になってずるい。結局母が呑み込んでいる。その様子や雰囲気がすごく不幸に感じるが、私以外の家族は平気そう」

 

そういうことを感じながら居心地悪く過ごしてきたのだそうです。

 

そもそもおばあちゃんが同居するようになった時もその理由や経緯については、Mさんたち子どもには何も聞かされませんでした。

その後お母さんが外で働きはじめました。

いつしかおばあちゃんをひどく嫌悪するようになった自分が最低な人間に思え、自己嫌悪で息苦しい思いをしながらも、それは決して口に出してはいけないことだと思っていました。  

 

「不満や嫌悪のなどの負の感情や、親を困らせるようなことは、決して口に出してはいけない」

 

それはMさんがお母さんから受け継いだものであり、お母さんもお母さんの母親であるおばあちゃんから受け継いだその家庭では当たり前となった生き方でした。

 

しかしそれは、自然に湧いた感情を封印し、仮面をつけて自分の心に嘘をついて生きる“虚偽の生き方”であり、皮肉なことに家族の絆を希薄にしてしまうものです。   

 

あとにMさんは、家庭内の違和感を捉えて次のように表現されていました。

「私のうちは変だ。嘘だらけ。誰も本当のことを言わない。イヤと言わない。何でも相手のためだからって言いながら何をそんなに我慢してお互い縛り合っているのだろう・・・。」    

 

不健康な連鎖への警告(サイン)

また、Mさんも、Mさんのお母さんも、お母さんの母親であるおばあちゃんも、

「待つ・見守る・受け止める・ゆずる・許す・認める・尊重する」という『寛容的な環境』に乏しく、「親の都合や親の常識の枠に合わせれば喜んでもらえる、合わせなければ喜んでもらえない」という“条件つきの愛”の中で、育ってこられていました。

このような家庭環境で育てられた子どもは、愛情で満たされることが極めて少ないのです。

その「満たされていない心の飢え」が、Mさんの『言葉にならない心の叫び』となって、お母さんやおばあちゃんに訴えかけようとしていたのです。  

 

このような家庭環境もまた世代を経て連鎖されていくことに対する警告(サイン)であり、「このような家庭環境や家族関係はこの代で断ち切ることが必要」ということを教えようとするもの、とも捉えています。  

 

 

つまり、Mさんの過食という行動は、幼い頃からの「満たされない心の飢え」を、食べ物という代用品によって満たそうとしている行為なのです。

そして、そのような表現を抑えられた環境に育ってきたため、家族間のみならず、対人関係で表に出せずに押し殺してきた不満や怒り、嫌悪感などの負の感情が体に蓄積することになります。

過食症は、この体の中に溜った嫌な思いや感情を、嘔吐という形で無理やり喉に指を押し込んで吐き出したり、下剤を使って排出することを繰り返す行為でもあります。  

すべて連動しているのです。

 

さらにカウンセリングが進むに従って、Mさんの過食症の発症には、お母さんの中の怒りや嫌悪感、反感といった負の感情が詰まったことの影響を強く受けていることがわかっていきました。

(Mさんのお母さんは、同居しているお母さんの母親(おばあちゃん)やそのほかの人との関わりで、負の感情を抱えていました。)

 

『不満や嫌悪などの負の感情は、決して口に出してはいけない』

 

Mさん一家に受け継がれたこのような信条のために、お母さんはご自身の中の負の感情の存在を認めることが困難になっていたほどです。

 

そのためお母さんは、人との関わりの中で、人に合わせ従うことが当たり前となって、相手にとって都合の良い人を「装う」、「取り繕う」といった偽りの生き方や、「強がって」自分の寂しさや弱さを見せないといった偽りの生き方を続けていて、自分らしさが育っていませんでした 。

相手が目上の人や女性同士の場合はそれが助長され、相手に合わせることを優先することが多く、そこに不満や怒り、嫌悪感、反感などの負の感情が生まれていますが気づきません。

しかしそれに蓋をして、たとえそれを「無いもの」として扱ったとしても、負の感情がお母さんの心に充満して詰まってしまうのです。  

 

このようにお母さんの心の中が負の感情で詰まると、心に隙間(ゆとり)がなくなります。

するとますます「待つ・見守る・受け止める・ゆずる・許す・認める・尊重する」という『寛容的な態度』を取れなくなります。

 

その結果、Mさんへの考えの押しつけや干渉(コントロール)が増えたり、(お母さんの母親⦅おばあちゃん⦆や家族以外の人との間で抑えた)お母さんの怒りや反感などの負の感情が “イライラして当たる” といった形でMさんたち子どもや旦那さんに向けられてしまいます。

お母さんの中に詰まっていた負の感情を受け止めたMさんは、嘔吐によって吐き出(排出)すことのなるのです。

 

さらに心の中が詰まって隙間(ゆとり)をなくしたお母さんは、Mさんの存在や言動を受け止めることができなくなってしまいます。

そのような状態のお母さんに無視・否定・拒絶・放置された場合や、気持ちを受け止めてもらえない状態がMさんに続くことで、不快な感情を押し殺して溜め込んでしまい吐き出す(排出する)ということも混在しているのです。  

 

HSC(HSP)は身代わりを請け負いやすい

また、特に(*3)敏感でお母さんの心理をキャッチして連動しやすい子ども(⦅*4⦆HSC・HSP気質)の場合、お母さんの心の中に充満して詰まった負の感情を子どもが身代わりになって吐き出す(排出する)ケース(『身代わりによる感情の解放』)も多く存在するものと考えられます。

(*3)HSC・HSPは、自分と他人との間を隔てる「境界」がとても薄く、他人の影響を受けやすいと言われている。

(*4)HSC・HSPの特徴・・・①刺激に対して敏感である。②場の空気や人の気持ちを読み取る力『共感する能力』に秀でている。③他人の影響を受けやすい。④直観力がある。⑤物事を深く考える傾向にある。⑥自分のペースで思案・行動することを好む。⑦正義やモラルを重視する。日本人の5人に1人がHSC・HSPに該当する可能性があると言われている。その70%は内向型で、残りの30%は外向型である。

 

Mさんの場合はそれが『過食・嘔吐』という形で表れた、ということです。

 

言うべきことを言って自分の心を尊重できるようにする必要

中でも、お母さんの、同居しているご自身の母親(おばあちゃん)に対して言うべきことを言えずに蓄積している負の感情はかなりのものであること、ご自身の母親の存在により自分らしさをなくす生き方に拍車がかかっていることを示していました。  

 

Mさんの症状が改善されるのには、まずお母さんが気持ちのくすぶりや感情のしこりが残らないような自己表現を心がけ、ご自身の母親(おばあちゃん)にも言うべきことを言って自分の心を尊重できるようにする必要がありました。

(おばあちゃんに対するお母さんの心の中に蓄積していた負の感情の中身とその量は、想像を絶するものでした)

 

まとめ

過食症は、確かに子どもさん自身の対人関係など、何らかのきっかけがあって起こっているものです。

しかし、そのきっかけ自体もお母さんの何かと連動した結果であるというところを理解していただけると幸いです。  

以上のようなケースに限らず、過食症は親(特にお母さん)との関係性が切り離せない問題ということがおわかりいただけたのではないかと思います。

 

子どもさんが経済的自立を果たしていない場合や同居している場合は特に、お母さんがご自身の中に隠れている、

『無条件に愛されたい・愛されたかった』

という欲求の存在に気づき、その欲求を満たそうとするために身についた

『良い子・良い人』の仮面にある問題の解決に取り組むことが最優先だと考えています。

同時に、子どもさんやご自身の気持ちや欲求を肯定的に受け止め、 ありのまま感じ、ありのまま表現できることが保障される環境を整えること、それが自分らしく生きることができるようになるということである、と伝え続けています。

 

さいごに

Mさんのケースは未成年で経済的自立がなされていないケースでした。

親御さんから離れ、経済的に自立した生活を送っている方で過食症が続いている場合は、親御さんからの精神的な分離・自立が望まれます。

詳しくは下の過去記事をご参照ください

anohi.hatenablog.com

 

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 さいごまでお読み下さりありがとうございました。