【産後クライシス】夫婦の溝を深くしないために気づくべきこと 

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こんにちは。

今日はカウンセリングルームブログに掲載している【産後クライシス】についてのQ&Aを取り上げ、リライトしてお届けします。

 

「産後クライシス」という言葉は、NHKのテレビ番組『あさイチ』の中で特集が放送され話題になった造語で、出産後(2年以内)に夫婦間の愛情が著しく冷めてしまうこと、それに伴う夫婦の危機について触れたものです。 

(*クライシス:危機・局面・崩壊)

 

最初にブログに掲載した頃から4年近くが経つ【産後クライシス】。

現在はさらに様々な情報やアドバイスなどが得られるようになりましたが、この記事は 臨床経験の中で考察を深めてきた独自の見解について書いています。

ほかの有益な情報の中のひとつに加えていただき、解決の糸口にしてもらえたらと思います。

 

Q.

私には1歳の子どもがいますが、子どもの世話や家事の大変さがわからず、労う気持ちもない、手伝おうともしない夫に嫌気がして冷めてしまっています。  

先日テレビ番組で産後クライシスというのを見た時、自分もそれだと思いました。

子どものためにも良い夫婦関係を築きたいのですが、何から手をつけたらいいのか、どうしたら解決できるのかわかりません。

何か方法はありますか?

 

  

A.

育児ノイローゼ」や「産後ブルー」「産後うつ」などの言葉は主にお母さんの精神的な不調の状態を示しているのに対し、「産後クライシス」は夫婦間の危機的変化のことが示されたものです。

 

カウンセリング・セラピーで数多くのクライエントさんとお会いしてきましたが、既婚の方においてはかなりの割合で夫婦間に何かしらの溝や亀裂を抱えていらっしゃいます。

 

中には産後2年の間に起こると言われる『産後クライシス』の時期に、そのきっかけが存在することが明確なケースが確かにあり、この問題が長い間夫婦に落とし続ける影の深刻さを見てきました。

 

愛情が冷めてしまうのはなぜ?

ご質問の中に、

ご主人が家事や育児に非協力的で理解がないと感じていらっしゃる、

それによってご主人への気持ちが冷め、嫌気まで感じていらっしゃるとあります。

 

愛情が冷める理由については

  • ママの体調・精神疲労
  • ホルモンバランスの急激な変化
  • 生活リズムが崩れ、自分の時間が取れない
  • 感情を持った小さい生命を一身に背負う責任や負担によるストレス

 など、ママの身辺のこと、そして、

  • 非協力的・非共感的な夫の態度や言動や、意識の低さ

が原因としてあげられています。

 

最近は、子どもさんを持つ男性の、育児への意識や参加が高まっているだけに、そうでない場合のご主人の問題がよりクリアに見えるようです。

その分不満も大きく膨らみますよね。

 

実は、産後クライシスの問題を解決したいと模索されるのがご主人の方であるケースが意外と少なくありません。

 

しかしそれは、多くは奥さんがすっかり冷めた状態になってしまった後。

もっと早い段階で解決を求められていたら、と思うのですが、事の重大さに気がつくのはどうしても機を逸した後になりがちなのです。

 

ですからここではあえて、「妻の訴えに聞く耳を持とうとしない夫」、そのような夫婦関係の背景に何があるのかを記しておきます。

 

権利(権限)の差

妻が、苛立ちや不満、負担をわかってもらえないもどかしさ・不毛感を抱えていても、「仕事や収入、男性であることで、夫に強い立場や権力がある」という価値観がどちらか一方にでもあると、話や気持ちは中々通じません。

  • 強い立場、権力を持っている側は『権利(権限)がある』
  • 権力が少ない弱い立場側は『権利(権限)がない』

潜在的に持つこの概念による権利(権限)の『差』は大きいものです。

 

多くの方は、『親(夫)が上で権利(権限)がある、子ども(妻)は下で権利(権限)がない』、という上下関係が当たり前に受け継がれた環境で育ってこられており、その上下観が刷り込まれてしまっています。

 

それが知らず知らずのうちに夫婦の関係性にまで上下をつくってしまっています。

 

『権利(権限)がある』側は、それを失うと都合が悪いので、(極端に言えば)例えば仕事や収入に高い価値があると思い、家事育児の尊さ・価値を認知しないようにして回避する方向に働くのです。

 

ですからボクは、遠回りのように思えるかもしれませんが、まずは奥さん(権利⦅権限⦆が少ない側)がご自身の価値や家事育児の尊さ・価値をしっかり認め、自分にも対等な立場・権利(権限)があることを認知すること。

そのうえで、ご主人の価値観や反応にかかわらず、ご自身の気持ち(意志)やニーズの具体的な表明を続けていくことが先決であると考えています。

 

Check : 気持ち(意志)やニーズを伝えることが高いハードルに感じられる?

  • 上下観によって夫婦間で自分の立場の方が弱くて不利、権利(権限)がないと思ってしまう
  • 生い立ちの中で植えつけられた『見捨てられ不安』のために、相手の反応が気になって、相手が嫌がるようなこと、相手にとって都合の悪いことを言うのが苦手

これらは、子ども時代に『(見えない)恐怖』を与えられることによって植えつけられた場合が多いので、その恐怖を超えて自己主張するのには勇気が要るのです。

 

しかしそれは、相手との間にご自身が上下観を持っている証拠でもあります。

相手に上下観や回避が働いているのであればなおさらのこと、その壁を叩く存在がなければ壊れないまま。

あきらめず対話を重ねることが大切です。

 

 

夫婦の亀裂を招く第三者の存在 

さて、ここまでは『産後クライシス』の原因や対策として一般的に得られる情報と大きな差はなかったのではないかと思います

ここからはボクの臨床経験で、多くのご夫婦に共通して見られた、

【「夫婦の溝」と「親御さんとの関係性」】について考察してきた独自の見解をお伝えします。

 

これまでの経験からボクは、

「夫婦に亀裂が入る時、そこには第三者の存在の影響がある」

と捉えて、そこに焦点を当てながらお話をうかがっていきます。

 

夫婦に亀裂が入る時、夫婦のどちらか、もしくは両方が、誰かほかの人の考えや価値観に影響を受けている可能性を見極めていくのです。   

 

中でもその影響が両家、もしくはどちらかのご両親(身内)によるものだった場合の夫婦の亀裂は大きく、場合によっては深刻で、それは放置されるほど冷え切ったものになっていく可能性を持っています。

 

ではご両親がどのように影響するのかについて詳しく触れていきます。  

 

赤ちゃんの誕生によって変化すること 

 赤ちゃんの誕生は、ご夫婦以上に、ご夫婦のご両親にとって大変喜ばしい変化がもたらされます。

ご両親が喜ばれるのは、多くのご夫婦にとっても嬉しいことであるのですが、注意が必要な点もあります。

新婚の頃まではご両親との間にはある程度距離があり、ご夫婦だけの生活に介入されることもあまりなかったという方が多いのではないかと思うのですが、お孫さんの誕生ということでご両親の頻繁な介入が生じた時、ご本人やご夫婦間の秩序が一気に乱れるのです。  

 

Check : 里帰り出産や産後の手伝いの依頼の有無

里帰り出産や、産後の手伝いを依頼するなどでご両親に近くなった時、ご夫婦の間で育まれてきた、二人にとっての大切な価値観や時間・空間が、ご両親のそれの方に偏ってしまったりすることで尊重されなくなると、ご夫婦間の衝突が起こりやすくなります。  

 

Check : 赤ちゃんの誕生で得られるご両親の関心や注目、愛情が心地よく、心理的な距離が近くなった

赤ちゃんの存在でご両親の関心や愛情を得られることが心地よいと感じて、電話やLINE、帰省など関わりが増え、ご両親と心理的な距離が近づくことでご夫婦の心の距離が離れてしまうことがあります。

 

Check : 母親に子育てを手伝ってもらっている

ご自身のお母さん(以下、母親)に子どもさんを預けたり、子育ての援助をしてもらうことは、大変な時期のママにとってはとても助けになることながら、一方では、母親の考えや価値観が無意識のうちに取り入れられてしまうことで「自分らしさ」が不安定になり、不調和や葛藤を生じさせることがあります。

 それは、依存度が高くなると、本当は不満や嫌だといった負の感情が湧いたとしても、それに蓋をして、母親にとって都合の良い娘にならなければうまくいかないからです。  

  

Check : 親の心が満たされておらず、空虚感や寂しさからくる依存を感じる。

母親の心がその親や伴侶からの愛情で満たされておらず、空虚感や寂しさが存在したとすると、一層のこと自分の娘への心配や、干渉が強くなっていきます。

(これは母親の中に存在する「見捨てられる不安」から起こる、無意識レベルの防衛的行動とも言えます。

「娘に子どもが誕生した」ことによって、「娘の意識が母親である自分から孫へと移る」。それによって自分の存在価値が奪われる、という無意識下の不安も関係していることがあります)

母が重いと感じつつ、避けるにも罪悪感が湧き起こるため、期待や理想の娘を務めてしまうことが多いのです。

  

Check : 嫁ぎ先の血族意識が強く、居心地の悪さや不満を感じる

嫁ぎ先のご家族の血族意識が強く、排他的に扱われているケースがありますが、この場合の溝は特に厄介です。

妻の存在がないがしろになっていることにご主人が気づき、奥さんのことを守ろうとしない場合、奥さんはご自身の親御さんや身内との心理的なつながりを求めたくなります。

その結果、ご夫婦の絆が引き裂かれることになってしまいかねないのです。  

 

 産後クライシスでは、「赤ちゃんの誕生をきっかけに両家の親子関係の変化や血族意識の強化が生じたことが影響しているという可能性」を意識し、それによって夫婦の絆が引き裂かれることがないよう工夫されると安心です。

 

変化は赤ちゃんを中心に

赤ちゃんが生まれると、生活のすべてが変わります。

夫婦ふたりで育んできた大切な時間・空間・ペース・価値観が、変化を余儀なくされます。

それだけでもストレスがかかりますが、赤ちゃんは自分たち夫婦がつくった大切な家族。

夫婦で協力しあって新しい時間・空間・ペース・価値観を受け入れていく必要があります。

 

しかし、そこに変化をもたらすのが両家のご両親の介入だったらどうでしょう。

親という存在はいろんな意味で強力です。

夫婦ふたりで育んできた大切な時間・空間・ペース・価値観は、気づかないうちに両家のご両親の介入によって想像以上に簡単に持っていかれてしまいがちなのです。

 

POINT!

『赤ちゃん中心とした変化は歓迎』でも、『親(他人)の介入による変化は夫婦にとって不健全』。

ママの身体や心理的な負担から、親御さんの助けを受けることは大切な選択肢のひとつとされていますが、上記のような問題を招きやすいことを考慮したうえで、影響を最小限に留める意味でも、パパがママの身体と心をしっかりサポートされることが大切です。

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コミュニケーションを円滑にするために

 ご夫婦に最も求められることは、気持ち(意志)やニーズを適切に伝え合えるコミュニケーション力です。

しかしこのコミュニケーション力は、我慢や良い子を求められる家庭で育った方にはハードルが高めで、負の感情などで心の中が詰まってしまうとますます閉ざされてしまうのです。

 

そのため、産後にありがちな次のようなことで心を詰まらせていないか、気づくようにします。

 

Check

  • 母親の助けを借りることで母親に言いたいことを言えずに、不満や怒りといった負の感情を封じ込める状態が招かれていないか?  
  • 出産を機に嫁ぎ先からの期待や干渉も多くなって、ストレスが増えていないか?
  • 頑張って理想的なお嫁さんを務めることで、本当の気持ちや感情に蓋をしていないか?

これらのことで起こる負の感情は、『自分らしさを失くす』という点で、そのほかのことよりも影響が大きく、心に隙間(ゆとり)がなくなる度合いが高いのです。

 

そのため、夫婦間でも「気持ち(意志)」「感情」「ニーズ」を適切に表現できなくなってしまいます。

 

さらに母親や嫁ぎ先のご家族との間で蓄積した不満や怒りなどの感情があると、それは伴侶に向けられてしまいやすく(八つ当たりして)衝突することになります。

   

改善策は対話と「心を詰まらせない工夫」

改善策としては、できるだけ

“お互いの心が詰まっていない時”

に、(場合によってはカウンセラーなどの中立な立場である第三者を入れて)じっくりと話し合うことが望まれます。   

そして夫婦がともに、両家のご両親(身内)の価値観や思惑・ペースに左右されない自立した自分を育てながら、ご両親(身内)の価値観や規律・秩序・役割・義務に縛られることなく、自分たちの新しい家族の中で吟味した価値観や秩序・ペースなどを最優先に尊重してあげられることが何より大切です。

 

「産後クライシス」という状況は人生(夫婦関係)をより良くするための分岐点とも言い換えられます。

 

その解決を求めて真摯に向き合うことは、守るべき家族との絆を育む生き方を選ぶということにつながります。  

 

大切なことは、蓋の下にある本当の自分の気持ちや感情に気づき、言葉にして表現してあげることで、『感情の詰まり』をなくしていくこと。

 

感情を詰まらせない生き方を身につけることで心にゆとりが持て、

「待つ・見守る・受け止める・ゆずる・許す・認める・尊重する」

という、(*機能不全家族とは反対の)『寛容的な家庭環境』を育てながら夫婦の絆を育んでいくことができるのではないかと思います。  

 (*機能不全家族:親によって親としての責任と機能を果たされていないために、子どもが子どもらしく生きることのできない、安心・安全感のない家族のこと)

 

「感情が詰まっている時の典型的な傾向」についてを、「子どもをかわいいと思いたい」に詳しく記載しておりますので、そちらをご覧下さい。

  

書籍案内

「負の感情に気づく」「伴侶に向かいがちな怒りの本当の矛先に気づく」「心の詰まりをなくす」「心を詰まらせないスキルを身につける」などのセラピーの過程を描いた、『機能不全家族』『アダルト・チルドレン』を受け継がないための本、

『ママ、怒らないで。』を出版しています。

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