【HSCと不登校】

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学校との相性を知るための、20のチェックリスト

子どもさんは、次のチェック項目にいくつ当てはまりますか?

□ 集団に合わせることよりも、自分のペースで行動することを好む。

□ 評価されたり、監視されたり、強要されたり、急かされたり、競争させられたりすることが苦手である。(どれか一つでもある) 

□ よく人と比較して、自分が劣っていたり、うまくいかなかったりしたことで自信を失いがちである。 

□ 人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。 

□ 誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらいようである。(どれか一つでもある) 

□ 1対1で話をするのを好む。 

□ 大勢の前でスピーチをすることや、大勢の人と会話をすることが苦手な傾向にある。 

□ クラス替えで親友と離れなければならなくなって、すごく落ち込んでいたことがある。 

□ 物事を始めたり、人の輪に加わったりする時など、行動を起こすのに時間がかかる。 

□ ちょっとしたことを気にする傾向にある。 

□ 刺激を受けすぎると疲れやすい。神経が高ぶりすぎた時はなかなか寝つけない。(どちらか一つでもある) 

□ 刺激を受けすぎて圧倒されたりすると、落着きがなくなったり、言うことを聞けなくなったり、物事がうまくできなかったりする。(どれか一つでもある)

 □ 刺激が多すぎて不安を感じる状況や環境では、冷静さや自制心を失って、持っている本来の良さや力が発揮できなくなりやすい。 

□ 想定外のことや突発的な出来事に対してパニックになってしまうことがある。 

□ 他人のネガティブな気持ちや感情の影響を受けやすい。例えば、他人の気分に影響されて、動揺したり、悲しくなって元気がなくなったりするなど。 

□ 安心できていない人に、急に話しかけられたり、頭をなでられたり、顔や体を触られたり、抱きつかれたりすることを嫌がる。(どれか一つでもある) 

□ 嫌だと思っても、なかなか「No」が言えない。 

□ 子ども扱いにする人や権威を示す人、権力をふりかざす人が極端に苦手である。(どれか一つでもある) 

□  ストレスに対する反応、例えば、「落着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「不眠」「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」などが出やすい。(どれか一つでもある) 

□ 人の些細な言葉や態度に傷つきやすい

 

これらは、HSCに見られやすい傾向です。

チェック項目に該当する数が多いほど、HSCにとって学校生活は負担が大きくなる(大きくなっている)ことが予測(推測)されます。

これらの傾向への認識がHSCに関わる大人の人たちに共有され、慣れるまでのそれぞれに合ったやり方やペースが尊重されると安心ですが、そうでない場合、 学校生活は、つらいものとなるでしょう。

 

HSC・HSPを提唱したエレイン・N・アーロン博士は、次のような言葉で、HSCのペースを大切にすることを強調しています。

自分のペースで新しい環境に入っていけるようにしましょう。幼稚園、小学校、中学校でも、HSCが新しい環境に溶け込むには、何週間も、何ヵ月も、時には1年くらいかかることもあります。特に幼いうちは、人の輪に入りたがらない場合は焦らないようにしましょう。ただしばらく観察することが必要なのです。(中略)

HSCは石橋をたたいて渡ります。安全と分かるまでは、リスクを取りたがりません。そしてその子たちにとっては、学校生活そのものがリスクの塊なのです。
(『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン著 / 明橋大二訳 / 1万年堂出版 p410-411より引用)

 

 

多数派の子どもたちの中で、生きづらさを抱える少数派のHSC

先日私が『HSC子育てラボ』に投稿した記事、『【定型発達の人たちの中で生きるHSC・HSP】 定型発達症候群とは !?』の中で、

HSC・HSPの人たちは、自分の気質を知らないまま、あるいは、知ったとしても、自分の気質が尊重されないまま、「定型発達」とされる人たちの価値観に合わせながらその世界の中で生きることで、生きづらさを抱え、さらにその中で「愛着の傷」や「トラウマ」を負い、生きづらさを強めているという見方を、私はしているのです。

ということをお伝えしました。

子どもさんの場合は、不登校がそうです。

多くの学校は、外向型の子どもたち向けにつくられているため、HSCの中には、様々な不利を強いられて、不適応を起こしやすかったり、多数派の人たちには想像もつかないほどの生きづらさを抱えている子がいるのです。

 

 

不登校のHSCに何が起こっているか

「いじめ」などの問題を除いて、学校に通っていたHSCが学校に行けなくなるという不登校の多くは、「社会性」や「その子にとっての過剰な適応能力」を求められた結果、期待に応えようと「頑張ってきたことに対する息切れ」や「集団のペースに合わせて生きることへの限界」を意味しているものと、私は考えています。

しかし、そこに「トラウマ」が絡んでいた場合、事態はより複雑化しています。

 

学校に行けなくなった子どもさんの心とからだは、どのようになっているのでしょう?

ここでは、敏感で繊細なHSCのことについて述べていきたいと思います。

 

外向性を重要視する学校という環境やその人間関係の中で、気質に合わないことによる多くのストレスと、その中で抱えざるを得なかった「自己否定感」や「劣等感」、さらに「挫折感」や「屈辱感」、

そして「学校に行きたくないと言ったこと」「学校に行けなくなったこと」で親に迷惑をかけてしまったという「罪悪感」などによって、身も心も疲弊していることが多いのです。

 

また、「ほかの子に遅れをとってはいけない」「周りから『学校に行かないのは甘えだ、わがままだ』と見られているのではないか」などの親御さんを縛るこのような考えから、親御さんが追い詰められて、何とか学校に行かせなくてはという焦りが、子どもさんに対しての圧力になっていたのかもしれません。

 

繊細で傷つきやすいHSCにとって、小さな出来事でも「トラウマ」となって残っていることが多く、その時に湧き上がった怒りや悔しさ、あるいは恐怖や悲しみなどの負の感情は、外に吐き出されることなく、誰からも受け止めてもらうことなく、解消されずに、心の奥底に抑え込まれています。

 

それは、就学前の、母子の分離不安が高まっている時期に、早く親離れできるようにと、人手に預けられたこと、園に行かなければならなかったことなど、子どもさんの気持ちや意志とは関係なしに、母親から引き離されたという体験が「トラウマ」となっていたのかもしれません。あるいは、学校で先生に当てられて答えられなかったとか、みんなの前で恥をかいたという体験などが「トラウマ」となっていたのかもしれません。

それは傍から見るとどうってことのないようなことだったりするのです。

 

敏感な子は心の傷を抱えると、過剰に敏感(過敏)になって、さらに傷つきやすくなります。

敏感性が高いほど、その傾向が強く出ます。

つまり、一旦トラウマを抱えると、些細なストレスに対しても過剰に反応するようになって、ストレスに対する抵抗力(ストレス耐性)は下がりますので、さらに傷つきやすくなって、トラウマを重ねていくという悪循環にはまってしまうのです。

 

そして、ストレスから逃れるために、解離”という防衛機制を無意識のうちに身につけていくことが多いのです。

解離…耐えきれないほどのストレスを受け、物理的に逃げ出すことができない時、意識が変容したり記憶が飛んだりすること。「ボーっとしている」「授業に参加してはいるけど成績がかんばしくない」「忘れ物が増える」などで表れることが多い。自分という意識が分離して、もうひとりの自分(別人格)をつくり出すことで、苦痛に耐えようとする無意識的な心の防衛反応でもある。 

 

 

表に出ていない心の傷 

学校に行けなくなったHSCは、学校から離れて過ごすことで、直接的なストレスから解放されますので、次第に落ち着いていき、以前みたいな笑顔も時折見られたりして、一見問題なく過ごしているように見受けられる場合もあります。

 

しかし、表に出ていない心の傷は、思いのほか深くなっていることが往々にしてあり、何らかの手当てが施されなければ、簡単には癒えてはいかないのです。

 

というのは、

繰り返しになりますが、つらかった出来事や体験とともに、その時に湧き上がった怒りや悔しさ、あるいは恐怖や悲しみなどの負の感情は、怒鳴ったり、わめいたり、思いっきり泣いたりすることで外に吐き出されて解消され、その時の出来事が過去のものとなり、「時間とともに忘れていく」ことができるようになるのです。

 

しかし、それらの負の感情に対して、何の対応も取らなければ、外に吐き出されることなく、誰からも受け止めてもらうことなく、解消されずに、心の奥底に抑え込まれています。つまり、心の奥底にトラウマ(心の傷)として残ってしまうのです。

 

表面的には何事もなかったかのように振る舞っているのですが、心の中はモヤモヤしていて、今までにずっと抑え込んできたもので一杯なのです。

 

中には、過度に良い子として振る舞うケースも少なくありません。

 

ただそうしたケースでは、思春期・青年期以降、強いストレスや何らかの挫折をきっかけとして、不安障害やうつ、摂食障害や依存症などの問題 、そのほか結婚後の夫婦間や子育てに関わる問題が表面化してくることも少なくないのです。

 

 

トラウマの後遺症(学校を離れても、起こり得ること)

では、トラウマはどんな影響を与えるのでしょうか?

 

心の傷が深い場合には、その時の出来事や体験が過去のものとなることができず、現在という時間の中で浮遊します。それがトラウマの後遺症として、次のような症状で表れるのです。

 

神経が過敏になると、眠りが浅くなり、些細な変化や新しい人・場面などに対して警戒心が強くなって、不安が高まるような状況を避けるようになります。

また、強くストレスを受けた場面や傷ついた場面が不意に蘇ったり(フラッシュバックしたり)、そのような場面を夢の中で繰り返し見たりすることもあります。

日常の生活においても、物事や出来事に対してネガティブに捉えやすく、うまくいかないことがあると落ち込んだりしやすくなります。 

今以上に傷つかなくて済むように、最悪の事態を考えるなど、悪い方向ばかり考えることを防衛として身につけていることもあるのです。 

また、過去のつらかった出来事や体験と同じような状況に置かれたり、過去の関係の中でネガティブな感情を心の奥に抑え込んでしまっていたような関係性のパターンに出会うと、当時抑圧された感情や身体感覚が湧き出します(フラッシュバックします)。 

その時と同じ緊張感・恐怖感・無力感などの感情感覚や窒息感・動悸などの症状で呼び起されたり、あるいは頭痛などの身体の痛みや身体の凝りなどの症状となって表れたりするのです。 

大量の感情が一気に湧き出してしまうと、パニック発作を引き起こすこともあります。

意識的、または無意識のうちに、ストレスやトラウマに関連した場所・人・場面など、不安を呼び起こすような状況を避けていることもあります。

  
ただし、このような症状を抱えていたとしても、周りの人に気づかれることは少なく、本人も自分の性格やものの考え方のせいで、そのようになっているものと思い込んでいることが多いため、自らそのことについて口にすることはめったにありません。

 

これらは、トラウマ体験の後遺症であるPTSD心的外傷後ストレス障害)に該当し、トラウマ回復のためのケアまたはセラピーが必要になります。

 

 

 回復に欠かせない『安心の基地』

しかし、それ以上にトラウマ回復のカギを握るのが、安心して過ごすことができる家庭における『安心の基地』が確保されるかどうか、なのです。

 

今までのような、感情を抑圧せざるを得なかった環境から離れ、安心して自分の感情を感じ、自由に表現できるような安心・安全な環境に身を置いた時、脳(心)は回復の動きを始めます。

 

上下の関係や、支配・押しつけのない安心・安全な環境に身を置くということがとても大切なのです。

 

そして脳(心)が安全を感知すると、感情への否認が解け、今まで閉じ込めてきたネガティブな感情を解放し始めます。

 

それは、今まで見ないように感じないように心の奥に押し込んできた本来の自分の感情や欲求が蘇ってきたことを意味するとても重要な過程ですので、自分の心に従って判断し、行動していくための自由さを伸ばすことのできる「育ち直しの時間」を十分に取る必要があるのです。

 

子どもさんによっては、幼かった頃に戻ったように、駄々をこねたり、わがままを言ったりして、親を困らせるような言動が目立ったりするかもしれません。

 

それは、幼い頃から登校過程の様々な場面で体験してきた、「不安で不安でいっぱいだったが何も言えなかったこと」や「傷ついて悲しくて仕方なくても甘えられなかったこと」などの未解決の傷が、修復していくために必要な過程であって、それに対して、否定したり拒絶したりせずに、それらをしっかりと受け止め、言葉にできなかったその痛みに寄り添えるかどうかが重要です。

 

この時期に徹底的に付き合うことが、安定を回復するきっかけにつながっていくのです。

 

 

学校に戻すことが解決ではない

一般に、学校に戻すことを前提としたカウンセリングやサポートが行われていると思われます。

 

しかしトラウマを抱えた子は、過去のつらかった出来事や体験と同じような状況にまた置かれるのではないか、もしくは、人と接する時にまた傷つくのではいないかと警戒し、過敏になっていて、いつも不安と恐れを感じています

 

そのためトラウマを抱えた子を巡る環境や関係性が、その子にとっての安心・安全なものにならない限り、過去のトラウマや過去の関係性の再現、わかりやすいところで言えば、過去と同じような状況に置かれた時、つらかったイメージや感情・感覚のフラッシュバックが繰り返されるのです。

 

ですから、トラウマを抱えたHSCを、「自分の気質に合わない環境」や「自分の気質に合わない関係性にあるところ」に戻すことは、『百害あって一利なし』と言っても過言ではないのです。

トラウマを抱えたHSCに対しては、これ以上傷を深めず、傷の回復が優先されるべきだと思います。

 

繰り返しますが、感情を抑圧せざるを得なかった環境から離れ、安心して自分の感情を感じ、自由に表現できるような安心・安全な環境に身を置いた時、脳(心)は回復の動きを始めるのです。

 

その意味で、安心・安全な環境に身を置くということがとても重要なのです。

  

生命(いのち)を生かすために必要な知識が得られると、見える世界が変わり、広がっていくことがあります。

そうすることで、概念になかった生き方という、新しい道が、多様に存在することに気づくかもしれません。 

 

ですから私たちは、HSCという概念とその特徴や特性を知ったからこそ、トラウマを抱えたHSCに対して、学校以外の選択肢の中でHSCの気質・特性を活かす道や、学校以外の環境や家庭環境で生きる喜びを、時間をかけてその子と共に探していくことの重要性が感じられていくのではないかと考えています。 

 

 

 

参考文献

『ちゃんと泣ける子に育てよう…親には子どもの感情を育てる義務がある』大河原 美以/著(河出書房新社)2006

『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン/著(1万年堂出版)2015 

  

 

 

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