【お知らせ】
~ポッドキャスト「コルクラボの温度」での対談、後編の配信~
妻である心理カウンセラー“Kokokaku”と息子“たける”とともに、
5月23日(水)、ポッドキャスト「コルクラボの温度」の収録に行って参りました。
前編は→こちら
対談は、ライターでポッドキャスターのとっちーさんのナビゲートで、Dr.ゆうすけさん、Kokokaku、そして私の4名+たけるで行われました。
主に、HSC(Highly Sensitive Child)やメンタルヘルスについてお話させてもらってきました。
20分×2本、前編と後編に分けての配信で、今回は後編です。
ご清聴頂けたら幸いです。
今回は、ポッドキャストでの対談で話題となった、『生きづらさ』というテーマをもとにHSC・HSPの子や人たちは、「社会性」の中でどう生きているのか、について考えをまとめておこうと思います。
「社会性」とは
私はよく「社会性」という言葉を使います。
その「社会性」とは、集団や組織をつくり他人と関わって生活しようとする性質や傾向、外向性・社交性に価値を求める性質や傾向、という意味です。
上下の関係が存在する世界
「社会性」の中には、当たり前のように『上下の関係』が存在します。
その、『上下の関係が存在する世界』に身を置いた場合、私たちは無意識に『合わせる』か、『闘う』か、『避ける』というどれかの行動を取ることで、心の安定を保とうとします。
「相手から認められたい」「自分の思いを通したい」「自分の世界を守りたい」という思いや欲求は、相対している人や状況によって一つの思いが強くなると、そのほかの思いとの間に葛藤が生まれ、私たちの心はこの葛藤によっていつも動揺し、安定しません。
また、目の前の環境や関係性に適応していくために、その環境や関係性から「逃げる」「離れる」という選択肢が無ければ、「合わせる」か「闘う」かで、様々な防衛手段に頼らざるを得なくなることがあります。
それは、自分の中から自然に湧いてくることとなった、自分が受け入れられない不快な考えや欲求・感情を、何らかの形で処理していかなければならないからです。
例えば、頻度の高いところで言えば、抑圧・合理化・*昇華といった防衛機制です。
*昇華…社会的に承認されない抑圧された欲求や衝動を、スポーツや芸術など社会的・精神的価値を持つものに置き換える防衛機制。
このような防衛機制を無意識のうちに発動させながら、この『上下の関係が存在する世界』に適応していく(この世界の中で生き抜いていく)ためには、仕事の中の「面倒を見る」「お世話をする」「人の役に立つ」「教える」という行為を通して、人よりも優位に立つことで心を安定させている、
あるいは、長期的には、出世するなどして、人よりも優位な立場に立つことで心を安定させている、というのが実際のようです。
感情処理の負担が多くなりがちなHSC・HSP
では、HSC・HSPの敏感性が高い子や人の場合は学校や組織の中で、どのような行動を取っているのでしょうか?
HSC・HSPは、モラルや秩序を重視し、不公平なことを嫌いますので、模範的な行動や、傍から見て支配的に見られないような行動を無意識に取る傾向があります。
実際には『上下の関係』が存在する「社会性」の中では、HSC・HSPは、「自分の思いを通したい」をあまり表に出すことなく、「相手から認められたい」「自分の世界を守りたい」という思いが強く表れがちです。
(ただし、HSC・HSPという敏感さと、HSS⦅High Sensation Seeking=刺激追究型⦆もしくはHNS⦅High Novelty Seeking=新奇追究型⦆という好奇心の強さを併せ持っている子や人の場合は、新しいものに対する関心が強く、冒険心や探求心に富むなどの特性や、怒りっぽさから、敏感性が隠れてしまいやすいが、「相手から認められたい」「自分の世界を守りたい」という思いを強く持ちながら、刺激を求めて活発に行動する傾向が強いため、「自分の思いを通したい」という思いまでも強く表れることが多い)
そのためHSC・HSPは、自分が受け入れられない不快な考えや欲求・感情の処理の負担も多くなりがちなのです。
ですから、抑圧といった基本的な防衛機制だけでなく、合理化や昇華などの防衛機制を多く働かせていたり、さらには*嗜癖(しへき)にまで至っている、あるいは、精神的な症状・身体的な症状で出ている、ということも珍しくありません。
*嗜癖(アディクション)…自分にとって都合の悪い、負の感情や考えや満たされない欲求を、紛らわすために身についた、『ある習慣への執着』。気晴らし程度に留まらず、それがなくては安定しないために、自分の意志ではやめることが困難なレベルに至っていること。
・人を介する嗜癖・・・共依存・恋愛・セックス・いじめ・虐待(侵入やコントロールを含む) など、
・物に対する嗜癖・・・アルコール・薬物・ニコチン・カフェイン・食べ物(過食) など、
・特定の行動に対する嗜癖・・・インターネット・スマホ・ギャンブル・仕事・勉強・買い物 など、
人からの評価によって自分の価値が決まるということに大きく意識が傾いている場合は、「面倒を見る」「お世話をする」「人の役に立つ」「教える」 「指導する」という行為を通して、人よりも優位に立つことで心を安定させようとする要素を含む、『共依存』や『仕事依存(嗜癖)』、『勉強依存(嗜癖)』などが見られがちです。
敏感な特性が最も現れにくい時期
『上下の関係』が存在する学校や組織の中では、何とない違和感を自覚しているHSC・HSPや、生きづらさを感じているHSC・HSPが存在していてもまったく不思議ではないのです。
HSC・HSPを提唱したエレイン・N・アーロン博士によると、HSC・HSPの10代半ばから20代前半は、敏感な特性が最も現れにくい時期で、20代後半からは、従来の特性が表に出てくるのだそうです。
これは、若い時はいろんな方法で誤魔化すことができたけど、歳を重ねることで、誤魔化しが効かなくなるということとすごく似ています。
自分にとって安心・安全でないところから離れる
気がつくと私は、あと3年で還暦を迎えることになります。
還暦とは、干支が60年たつと一回りして、元にかえるという意味でこう呼ばれるようになったと言います。
「社会性」の中で生きづらさを感じ、ストレス反応や様々な症状が出ていた私ですが、現在、組織(機関)を離れ、「ありのままに感じ、ありのままに表現していくということが妨げられない」対等で安心・安全な環境・関係性に身を置いているせいか、歳を重ねるごとに直感力などを含む敏感性が増しているような気がしています。
しかしこれは、ある意味、生まれた時の本質的な気質(本来の自分)に戻ってきているようで、以前のように社会に適応していくために感情や感覚を鈍らせたり、自分を誤魔化したり、言い聞かせたり、自分の感情や考え方をコントロールしようとしたり、何かで紛らわせたりする必要がなくなったことが大きいと言えます。
ですから、HSC・HSPで、学校や組織の中で生きづらさを感じていたり、嗜癖あるいは症状が出ていたり、防衛機制を多く働かせていて、現在身を置いている環境や関係性が、安心・安全でないと認識されたら、適応する方法に限らず、時間をかけてその環境や関係性から離れる方法を考えてみる、
そして、
学校や組織にこだわることなく、持って生まれた気質が個性として開花できるような、その子・人の身の丈(気質)に合った方法や環境・関係性を選択していく、ということがとても大切だと思っています。
参考文献
『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン/著、明橋大二/訳 一万年堂出版 2015