子どもの気質に合わせた子育てに立ちはだかる壁
「HSC(Highly Sensitive Child)を育てる親にとって、その子の気質やペースに合わせた子育てがもっとも重要で、その子に合わせるとは、その子らしさを育める家庭環境を整えることです。
また、教育や職業に関しても、学校や組織にこだわることなく、持って生まれた資質や個性が開花できるような、その子の身の丈(気質)に合った方法や環境を選択していくことが望まれます。
前回の記事ではこのように締めくくっていました。
では、具体的にはどうしたらいいのだろう・・・
現実を目の前にすると、子どもの気質やペースに寄り添っていて大丈夫なのだろうか・・・という心配が頭をもたげてきてしまいます。
「ほかの子に遅れをとってはいけない」
「おちこぼれてはいけない」
「早く社会性を身につけて適応させなくては、自立させなくては」
多くの親御さんを縛るこのような考えが、
HSCである子どもさんの気質に合わせた子育てや、子どもさんの気質を花開かせるための人生の選択に、立ちはだかる大きな壁のひとつとなっているのです。
ではなぜ、そのような考えに縛られのでしょうか?
それは親御さんたちが抱える、子ども時代に体験した「愛着の傷」や「ご自身の親からのコントロールによる心の傷」が大きく影響していると考えられます。
「愛着の傷」と「親からのコントロールによる心の傷」
この、「愛着の傷」と「ご自身の親からのコントロールによる心の傷」にいずれにも共通しているのが、「見捨てられることへの不安や恐怖が強い」ということです。
「愛着の傷」とは、3歳頃までの時期(5歳頃までは敏感な時期なだけに慎重を要する)に、母親から引き離されるという体験です。
母子分離不安が高まるこの時期に、無理やり母親から引き離されるという体験をすると、愛着に傷が残り、「見捨てられ不安」が強まりやすくなると言います。
(※特にHSCは、その気質から、母子分離による愛着の傷のダメージが大きい)
「ご自身の親からのコントロールによる心の傷」とは、“条件つきの愛”というコントロール(支配)によってもたらされたものです。
“条件つきの愛”とは、親の都合で考える価値観が基準となっていて、
親の都合や要求に子どもが合わせれば(従えば)親は喜ぶ、
親の都合や要求に子どもが合わせなければ(従わなければ)親は喜ばない。
さらに、
親の都合や要求に子どもが合わせなければ(従わなければ)、
または、
親の価値観の枠を外すような行動を子どもが取ると、
(*1)見捨てるような否定的で拒絶的な言葉や、
(*2)見捨てるような態度、
(*3)見捨てるような素振りを、
子どもに与える(見せる)という、わかりにくいコントロール(支配)のことです。
(*1)見捨てるような否定的で拒絶的な言葉・・・「もう知りません」、「勝手にしなさい」、「あなたにはガッカリした」、「あんたなんか産まなきゃよかった」、「そんな子はうちの子ではありません」など
(*2)見捨てるような態度・・・無言になる、無視、放置 など
(*3)見捨てるような素振り・・・表情が曇る、顔がこわばる、言葉数が減る、悲しそうな顔をする など
それは「親からの見捨てられ体験の後遺症」
子ども時代に体験した、これらの「ご自身の(*4)親」からの見捨てられ体験は、
過去のものとなることなく、潜在意識の中にトラウマとして残っているため、社会に出ていくことで、「ご自身の親」がそのまま「世間様」や「社会」にスライドし、
「世間様」や「社会」から見捨てられることへの恐怖、取り残されることへの恐怖に怯えながら、それを自覚することなく生きることになります。
そして、
「人並みにしておかないといけない」「ほかの人に遅れをとってはいけない」
「人に負けてはいけない」「社会から落ちこぼれてはいけない」
「人から嫌われないように」「世間様に後ろ指を指されないように」
「世間に出て恥をかかないよう」「早く社会に適応しなくては」
という考えに縛られながら、自分の自発的な意志やペースをもとにした選択ができなくなってしまうのです。
それはつまるところ、子どもさんの気持ちやペースに寄り添うことよりも、世間体や社会側に立った立場で物事が判断されることが当たり前(その家の常識)となって、その世間体や社会の常識が優先されていくということにつながっていくのです。
(*4)親からの見捨てられ体験は、他にも、家族の中で自分だけがのけ者にされたことや、きょうだい間で比較・競争・差別が存在し、自分以外のきょうだいが優先されたこと、一目置かれたこと、自分だけが取り残されたこと、などが関係していることもあります。
また、自己否定感や見捨てられることへの不安や恐怖を、優越感を得ようとすることで打ち消そうとするために、上昇志向へと駆り立てられ、『高学歴や社会的評価の高い職業・肩書・経歴・資格へのこだわり(自分の子どもに託す場合もあり)』が強くなっていることもあります。
参考文献
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)2011』岡田尊司/著